simpleA記

馬にふつまに 負ほせ持て

全ての道は、保険につながる


今は昔、

サラソタ記念病院のマネジメントチームは、医療保険を持たない患者のための無料外来クリニック設立を、ボード*1に提案した。(『病院の内側から見たアメリカの医療システム』p.117)

病院の内側から見たアメリカの医療システム

病院の内側から見たアメリカの医療システム

ってなわけで、要するに、「保険持ってない人が無料で診察を受けられるような診療所をつくりましょう」ということで、何ともまぁ、競争社会アメリカにはふさわしくない「ナイーブな」提案が出た。


ところが、この一見すると弱っちょろい提案は、よくよく事情を知れば、大して弱っちょろいこともなく、むしろ「したたかだな」と思わせるもんがある。


さっきの本の117ページから119ページへと読み進めていきましょ。
すると、こんな感じで、この提案がなされた背景が説明されている。

当時、保険を持っていない人たちは、ちょっとのことじゃぁ、病院へ行かない。だって、治療費払えないもーん。だから、みんな病院へ行くまい、と必死に耐える。治れと祈祷する。


ところが、突然倒れる。救急車が彼らを病院へ運ぶ。治療を受けて、どーにか助かる(かわいそうなんだけど、たまに手遅れ)。だけど、お金はない。当然病院はとりっぱぐれる。


病院サイドの不幸は、これだけで終わらない。


そんな金ない重病人が救急車で緊急病棟へ運ばれるんだから、緊急病棟はいつもいっぱい。挙句の果てに、緊急病棟の前には行列ができて、血だらけでも待たされる。だから、みんな病院の悪口を言う。あの病院、いつもいっぱいで、救急病棟行ったって、相手にしてくれやしない、ってな感じで。
*2


こんな感じで、病院の経営は、ダブルのパンチを受けていた。
そこで思いついたのが、例の無料外来クリニックというわけ。


結局、このサラソタ病院のボードは、この計画を承認したんだけど、そのときの理由は、

無料外来クリニックは、クリニック設立に投資することで、

  • 患者未払い金を減らし、
  • 地域社会のイメージを上げ、
  • 寄付金の増益を図り、
  • 緊急病棟に保険を持つ緊急外来患者増加を図る

ことで、結果的に、収益増加と、ステークホルダー・バリューを満たす内容であった

ってこと。


そんで、「この解決策がすばらしい、とか、これって根本を解決したことにならんよね」ってなことをあれこれ言いたいんじゃない。それはまた別の人が別のところで、いろいろと書いてる(はずな)ので、そっちをみよう。


こんな話をして結局何が言いたいのか、っていうと、「まず、アメリカには、ものすごーい数の無保険者がいる。これなんかみれば、「アメリカ国民のおよそ4,700万人が医療保険未加入*3」らしい。そんで、やっぱこんだけ多いと社会的に無視できなくて、あれこれと話題になる。そんなわけで、アメリカってもんを理解するひとつの手段として、この保険関連を中心に眺めるってのは、ありなわけ。今回みたいな無料外来クリニックなんて、調べれば、あっちこっちにあるし、そんな看板掲げてなくても、結局、無料なわけ*4。というわけで、アメリカを語る以上、これからアメリカの保険事情について、何回か紹介していくよ。そーすっと、アメリカ(の社会)がよーく見えるよ」ってこと。

*1:経営・運営に関する重要なことを決める集まりのことね

*2:いつものごとく、でっかい尾ひれがついてるので、正確に知りたい人は、必ず、原文を参照ね。

*3:アメリカって3億人くらいいるらしいから、6分の1に相当すんよね。

*4:でも、良い子のみなさんは、決して無保険でアメリカ旅行+入院しようなんてマネしないでね。